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第4話 婚約破棄の申し出⑥

مؤلف: なつめ
last update تاريخ النشر: 2026-06-24 14:57:54

 父は机の上の書簡へ視線を落とした。濃紺の封蝋。レーヴェン商会だろう。そこへ視線が落ちたこと自体が答えだった。

 リリアーナは最後の一歩を踏み込む。

「お父様」

「何だ」

「お父様が本当に家を守りたいなら、今見るべきは侯爵家ではなく、机の上のそれです」

 その瞬間、父の表情が止まった。

 自分でも分かった。今の一言は深く入った。侯爵家という巨大な外の救いではなく、足元の火種を見ろと娘に言われたのだ。誇り高い伯爵にとって、それがどれほど痛いかくらい分かる。だが痛いからこそ効く。

 長い沈黙のあと、父は低く言った。

「出ていけ」

「お父様」

「今すぐ答えは出さん」

「……」

「だが、話は聞いた。もう出ていけ」

 追い払う声だった。けれど拒絶とは少し違う。少なくとも最初のように“下らない我がまま”として切り捨てられてはいない。

 リリアーナは深く礼をした。

「ありがとうございます」

「礼を言うな」

 吐き捨てるような声音。しかしその裏にあるのは、怒りと、焦りと、娘への薄気味悪さだった。

 扉へ向かう。手をかける。その前に、背後から低い声が落ちた。

「リリアーナ」
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